生物多様性保全と再生可能エネルギーの導入は両立可能か?- 別寒辺牛川流域を対象として-

Abstract

パリ協定の合意以降,脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの主力電源化への関心が高まっており,地域の生態系に配慮した導入が求められている.本研究では北海道東部の別寒辺牛川流域を対象に,生物多様性保全と両立可能な再生可能エネルギーの導入方法の探索を試みた. 別寒辺牛川流域では今後人口減少に伴って農業従事者数が減少することが懸念されており,牧草地の放棄の進行が将来の不確実性の一つである.そこで,地域内で導入が始まっていた太陽光PVと木質バイオマスの2つの再生可能エネルギーを放棄牧草地に導入することを想定した. A) 放棄牧草地の増加速度とB) 放棄牧草地に導入する2つの再生可能エネルギーのバランスから,2016-2100年の土地利用計画を31ケース設計した.気候変動下の森林と放棄牧草地での植生遷移は,Forest Landscape ModelのLANDIS-IIでシミュレーションした.将来気候シナリオにはRCP2.6と8.5を想定し,合計62ケースで1) 樹木の多様度,2) クマタカ (Spizaetus nipalensis orientalis) の生息適性指数,3) シマフクロウ (Ketupa blakistoni blakistoni) の生息適性指数と,4) 再生可能エネルギー生産量を計算した. 木質バイオマスの生産地に転用された放棄牧草地ではシラカンバ (Betula platyphylla) やハンノキ (Alnus japonica) が優占する広葉樹林に遷移した。平均気温が5度上昇するRCP8.5シナリオではシラカンバの定着が困難となり,樹木の多様度と生息適性指数が低下した.木質バイオマスエネルギーのみを導入するシナリオでは2100年付近のエネルギー生産量は2015年の地域内の需要の28%である一方,生態系指標は現状の土地利用を維持した場合より向上した.太陽光PVの導入で地域需要の10倍のエネルギーが生産されたが,生態系指標は低下し,特に開放地で採餌を行うクマタカの生息適性指数が減少した.一方,2つのエネルギーをミックスして導入することで需要量と同程度のエネルギーを生産しつつ生態系指標も維持できることが示された.脱炭素と生物多様性保全を両立する景観管理のためには生物多様性・気候変動・エネルギー生産の連環構造を考慮することの重要性が示唆された.

Publication
日本景観生態学会第30回大会要旨集