気候変動下では台風の発生頻度や強度が増加すると予想されている。風倒被害を低減する対策と同時に、風倒後の再生を促進する森林管理が求められている。そこで本研究では、風倒後の地上部バイオマスと種組成の回復過程をシミュレーションし、気候変動下でも高いレジリエンスが期待できる管理方法を探索することを目的とした。 北海道渡島檜山森林計画区の国有林全域 (北緯42度27分, 東経139度51分,標高0-1300 m、総面積348 km2) を対象に、2016年8月下旬に上陸した台風7号、11号、10号で風倒が発生した林分で、2100年までの地上部バイオマスの回復過程をシミュレーションした。風倒前の樹種、樹齢、材積の空間分布は森林簿から設定した。木本の更新を阻害するチシマザサ(Sasa kurilensis)の空間分布は森林簿の立木密度から推定した。1) 倒木の処理方法と2) 植栽する樹種の組み合わせで風倒後施業ケースを設計した。将来気候シナリオは、農研機構が統計的ダウンスケーリングを施したRCP2.6と8.5シナリオ、現在気候が継続する場合を想定した。風倒後施業ケース別の植物種別の地上部バイオマスと種組成の変化は、森林景観モデルのLANDIS-IIで月別かつ10m解像度のグリッド別にシミュレーションした。風倒前と2055・2100年の樹種別の地上部バイオマス量と組成を比較した。 2055年までの計算結果からは、気候変動の影響よりも風倒後施業の違いの影響が顕著に現れた。地上部バイオマスの回復量は、風倒後に倒木を撤去し、風倒前と同じ樹種や温暖化適応樹種のスギを植林したケースで最大となった。倒木を残置するケースでは、林床のササが天然下種更新を妨げるとともに前生稚樹の成長を被圧し、2055年までには林地に回復できないことが示された。これらの結果から、気候変動下で風倒後のバイオマスと種組成の回復を促進する森林管理方法について、風倒前の森林タイプ別に議論した。